映画『死刑台のエレベーター』あらすじ・ネタバレと感想

Amazon|死刑台のエレベーター(完全版)より

映画の基本情報

■公開年:1957年
■監督:
ルイ・マル
■主演:モーリス・ロネ、ジャンヌ・モロー
■制作国:フランス
■上映時間:92分

フランスの古き良きサスペンス映画、『死刑台のエレベーター』を観たので、あらすじ(ネタバレ含む)と感想を書いていきます。あらすじはネタバレなしの部分とありの部分とに分けて書いているので、まだ観ていない方は注意して読んでください。

モノクロ映画でお洒落な良い雰囲気の映画です。観客参加型の謎解きストーリーではないですが、ラストシーンまで目の離せないストーリーとなっています。そしてやはりフランス語は美しい。また、メルセデス300SLクーペなど、時代の名車が登場するのも見どころの一つです。

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主な登場人物

■ジュリアン・タベルニエ(モーリス・ロネ):元軍大尉の会社員
■フロランス・カララ(ジャンヌ・モロー):ジュリアンの勤める会社の社長夫人
■ルイ:アホな若いチンピラ
■ベロニク:若いチンピラの彼女で花屋の店員
■シェリエ警部:事件を担当する物静かな警部

あらすじ(ネタバレなし)

ジュリアンとフロランスは不倫関係にあった。電話で愛をささやきながら、二人の自由のために、共通の弊害であるジュリアンの社長、かつフロランスの夫のカララ社長を暗殺することを決めた。

作戦は土曜日に決行された。ジュリアンはオフィスでアリバイを作った上、元大尉の経験を活かして鉤のついたロープで上の階の社長室に侵入し、社長を自殺に見せかけ殺害。自分のデスクに戻り、悠々と事務員と警備員と一緒にエレベーターを降りて帰路についた。

ところが、会社の前に路駐している自分の車に戻ったところで、侵入に使用したロープを回収し忘れていることに気付く。急いで建物に戻るジュリアン。その様子を目の前の花屋のベロニクと、その彼氏のルイが見ていた。ジュリアンは元大尉ということで社会的信用は厚く、ベロニクも「タベルニエさんは元軍人で素晴らしい男性よ」とルイに嬉々として話す。彼女に嫉妬し、ルイは車に鍵を挿したまま放置されたジュリアンの車を盗もうとし始めた。

あらすじ(ネタバレあり)

※以下ネタバレあります。本作をまだ観ていない方は注意して下さい。

建物へ戻ったジュリアンは、先ほどのエレベーターに乗り込み、自分のデスクまで行こうとするが、そのタイミングで警備員が社内の電源を落として帰ってしまう。エレベーターは上昇途中で停止し、ジュリアンは脱出もかなわずエレベーター内に閉じ込められてしまう。

一方、ルイはジュリアンの車を盗んでベロニクと一緒に走り出していた。

一方、ジュリアンを待ち続けるフロランス。夫殺害の作戦が終われば落ち合うはずだったジュリアンが約束のカフェに現れないので不安に陥っていた。そして、目の前を通り過ぎるジュリアンの車とベロニクを見る。運転手のルイの顔が見えなかったため、ジュリアンが自分を捨てて若い娘と逃げたと勘違いしたフロランス。

夜のパリ。必ずジュリアンを見つけ出すと心に決めて街をうろうろ歩き周るフロランスは、顔なじみのカフェやバーを転々とする。

ルイとベロニクはジュリアンの車内から拳銃と小型カメラを見つけていた。二人は高速道路を走っていて、彼を追い越してきた1台のベンツと競争を始めた。高速道路脇のモーテルに停車したベンツに乗っていたのはドイツ人夫婦の観光客だった。そのドイツ人夫婦はルイの運転を気に入り、自分の借りている部屋にルイとベロニクを誘った。ベロニクはジュリアン・タベルニエの名前を使って同じモーテルに宿を取った。

ドイツ人夫婦は2人に酒を振る舞い、楽しい時間を過ごしていた。ジュリアンの小型カメラで写真を撮り、モーテルに備え付けの写真屋で現像を依頼する。写真が仕上がるのは翌日になりそうだ。

ドイツ人と楽しい時間を過ごして眠りについたルイとベロニクだったが、車を盗んでいる罪意識から夜明けの前にルイは起きだし、ベロニクを連れてモーテルから逃げようとする。アホのルイはジュリアンの車を捨てて、ドイツ人のベンツを盗もうとするがドイツ人夫婦に見つかり、慌てたアホは2人をジュリアンの拳銃で射殺してしまう。そしてベンツで逃走し、パリ市内の道に乗り捨てて自分達の部屋に戻って来た。2人は人殺しをした以上警察に見つかって逮捕されれば離れ離れになってしまうと考え、睡眠薬を飲んで心中しようとする。アホである。

もちろんドイツ人夫婦の殺害はすぐに公になるが、犯人はモーテルの予約に偽名を使われたジュリアンだということになっていた。モーテルの他の客が、逃走するルイ達の顔がよく見えなかったにも関わらず、警察に提示された写真を見てジュリアンの顔だったと証言したためである。

カフェで朝まで過ごして警察署に連れてこられたフロランスは、迎えの車を手配した。そこでジュリアンがドイツ人夫婦殺害の容疑をかけられていることを知る。新聞にもジュリアンの写真とともに事件が大きく報道された。

ドイツ人殺害事件の担当になったシェリエ警部は、ジュリアンの働く会社の警備員を連れてジュリアンの会社へやって来た。電源が入れられたことでついにエレベーターは1階で止まり、もう一つ別のエレベーターで上に登る警備員と警部の会話を耳にしながら脱出を果たしたジュリアン。すぐにフロランスと約束をしたカフェに行くが、既に店員や他の客は殺人容疑のかかっているジュリアンに気付いており、そこで通報を受けて彼は逮捕された。

一方、建物の上に上がった警備達は社長室で社長が死んでいるのを発見していた。

夫の死の知らせを受け、ジュリアンが約束を果たしていたことを知ったフロランスは、花屋のベロニクが車に乗っていたことを思い出し、彼女の住所を調べてベロニクの部屋に乗り込んだ。そこには自殺に失敗して眠そうなルイとベロニクの姿があった。重ね重ねアホである。それを見てドイツ人殺しの犯人が彼らだと確信したフロランスは匿名で警察にタレこむが相手にされない。

なんとか起き出してきたルイは、昨夜ドイツ人夫婦と撮った写真を証拠隠滅のために回収しようと原付バイクでモーテルへ戻った。フロランスはそれに気づいて車で後を追う。モーテルに着くと既に捜索に入っていた警察にアホのルイは逮捕された。残されたドイツ人夫婦と映る写真からルイによる殺害が判明したのだった。

しかし、印刷された写真の中にはなんとジュリアンとフロランスが幸せそうに2人で映る写真もあった。小型カメラのネガに残っていた2人の写真も一緒に現像されていたのだ。全てを察したシェリエ警部は、夫殺しは重罪だと告げてフロランスを逮捕した。フロランスは、これから流れる何十年という獄中での時間に思いを馳せる。

感想

当時なんと25歳だったルイ・マル監督の初の長編映画作品。そんなことは微塵も感じさせない脚本と映像、そして音楽にはまさに脱帽です。センスの塊としか言いようがありません。

難解なストーリーではないですが、かなり複雑に物事が絡み合ってラストに向かっていくのは圧巻です。ドイツ人夫婦が殺害された晩にジュリアン本人はずっとエレベーターの中にいたという構図がおもしろかったです。

そしてなんと愛を語らうジュリアンとフロランスは作中で一度も、抱擁どころか顔を合わせることさえありません。最後のシーンで、フロランスはこれから先、10年も20年も無意味な時間が流れていくとこぼします。その途方もない時間の先に彼女たちの本当の幸せは訪れるのか。モノクロの映像と相まって時間と罪の重さがひしひしと伝わってくるラストシーンとなっています。また、現像された幸せそうな2人の写真がモノクロ映像でも鮮烈に移り、若き監督の至高の表現技法でもって最後の山場を演出しています。

ルイという若者の愚かさには終始半笑いでしたが、よく考えたらなんだかんだルイに付いて行き、尊敬しているはずのジュリアンの名前でさらっとモーテルを予約するベロニクも、不倫のために殺しをするジュリアンとフロランスも愚かなものです。登場人物の自業自得的な破滅へのカウントダウンが、本作のストーリーの言いようのない不穏な雰囲気を作り出しているのでしょうか。

本編を通してもちろんフランス語が話されますが、ある種の倦怠感を含むフロランスのナレーションのようなセリフを聞くと本当に詩的な言語だなあと思います。モノクロ映像にジャズ、そしてフランス語。いや~、ベストマッチです。

ちなみに若干25歳の駆け出し監督ルイ・マルがなぜ大物俳優陣や音楽家を起用できたのかについてはちゃんと裏があります。ルイ・マルは大物実業家の息子であり、父親から莫大な資金援助を受けてこれらの人々を集めたそうで、これは巷では有名な逸話になっています。

総合評価は80点(100点満点)です。定期的に見返したい名作です。

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