映画の基本情報
■公開年:1960年
■監督:アルフレッド・ヒッチコック
■主演:ジャネット・リー、アンソニー・パーキンス
■制作国:アメリカ
■上映時間:109分
誰知らぬものはないと言っても過言ではない超有名なサイコ・スリラーの金字塔、『サイコ』を観たので、あらすじ(ネタバレ含む)と感想を書いていきます。あらすじはネタバレなしの部分とありの部分とに分けて書いているので、まだ観ていない方は注意して読んでください。
そもそも「サイコ」という言葉が世に広まったのはこの映画の影響と言われています。もちろんかなり古い映画ですが、そんなことは気にならない内容の濃さと演出の素晴らしさがあります。一瞬ホラーな怖いシーンはありますが、どんな方でも観られる内容です。ぜひこのサイコ・スリラーの先駆けとなった映画史に残る本作を皆さんもチェックしてみて下さい。
主な登場人物
■マリオン・クレイン(ジャネット・リー):不動産会社の美人OL。
■サム:マリオンの恋人。バツイチ。
■ライラ・クレイン:マリオンの妹
■ノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス):さびれたモーテルを経営者する若い男
■アーボガスト:私立探偵
あらすじ(ネタバレなし)
アリゾナ州フェニックスのとあるホテルで昼間からマリオンとサムが仲良く過ごしている。マリオンはアリゾナ州で、サムはカリフォルニアで仕事をしているが時々こうして逢瀬を重ねていた。彼と結婚したいマリオンだったが、サムは自分の経済力の低さから結婚に二の足を踏んでいる。
その日、ホテルから職場に戻ったマリオンは、客が不動産購入に払った大量の現金を銀行に預けることになった。しかし、サムのことを想うあまり、彼女は会社を早退し、その金を着服して車でカリフォルニアへ向かってしまう。しかもその様子を自分の勤める会社の社長に見られてしまった。
それでも後戻りはせず、彼女は車を走らせ続けた。道脇で車中泊をしていたところ警官に呼び止められるが、お金のことはバレなかった。しかし焦ったマリオンは途中で車を買い替えた。警官と自動車屋には怪しまれたが、お金を盗んだことはまだニュースにはなっていないようだった。
マリオンは大雨の中車を走らせ、やがてベイツというモーテルへ到着した。
あらすじ(ネタバレあり)
※以下ネタバレあります。本作をまだ観ていない方は注意して下さい。
マリオンがたどり着いたモーテルは、ノーマンという若い男性が一人で切り盛りしており、彼はすぐ裏手の丘の上に立つ屋敷で母と二人暮らしをしていた。せっかくなら屋敷の方で食事を出すよ、といい屋敷へ一度戻ったノーマンだったが、女性を連れ込むなと言う母親との口論が聞こえ、やはり彼は屋敷ではなくモーテルの応接室でマリオンに食事を振る舞った。鳥の剥製がたくさん置いてあるその部屋で、彼は自分のことを話し始めた。鳥の剥製製作が趣味であること。病気の母と2人暮らしで自分がずっと介護をしていること。母親を施設には入れたくないこと等々。もっと話をしたい様子のノーマンだったが、疲れていたマリオンは食事が終わると部屋に戻った。
マリオンは着替えをして、盗んだお金の計算をしていた。彼女は翌朝フェニックスに戻り、お金を返して罪を償うつもりでいた。ノーマンは、応接室の壁にあけられた穴からマリオンの着替えを覗いていたが、その後屋敷に戻っていった。
計算を書いた紙をトイレに流し、シャワーを浴びていたマリオン。するとそこに、何者かが侵入してきて、マリオンを包丁で何度も刺して殺害。バスルームから出ていくその後ろ姿は女性のようだった。
「母さん、血が!」と叫んでマリオンの部屋に走って駆け付けたノーマンは、死んでいるマリオンを見て仰天。しかし、すぐにその遺体処理の作業を開始した。風呂場をきれいに掃除して、マリオンの遺体と荷物、そしてお金までもマリオンの車のトランクに詰め込み、そのままモーテル裏の沼に車ごと沈めるのだった。
場面変わってカリフォルニア。サムの店にライラがやって来る。姉のマリオンが現金を盗んで失踪した件で、サムが共犯してると考えていたのだ。そこへ、マリオンの社長や不動産購入の客が、お金さえ戻れば警察沙汰にはしないとの思惑で雇った私立探偵のアーボガストも合流。アーボガストはほどなくしてマリオンがノーマンのモーテルに宿泊したことを突き止めた。
ノーマンを訪ねたアーボガスト。ネームリストからマリオンの宿泊を確認した彼だったが、ノーマンは嘘の答弁をして、何かを隠しているような怪しい雰囲気だった。母親からも話を聞きたいという要求を断固拒否され、アーボガストは一旦身を引くことにした。彼はライラに電話をし、サムは共犯でないことと、モーテルが怪しいのでもう一度訪ねて1時間後ライラの元に戻ることを伝えた。
再びモーテルを訪ねたアーボガストは、ノーマンの姿が見えないので勝手に屋敷に忍び込み、母親を探し始めた。しかし、階段で二階へ上がったところで女性と思しき人から襲われ、包丁で刺された彼は階段から落ちて死んでしまった。
数時間経っても戻らないアーボガストに違和感を感じ、ライラはサムと共に町の保安官へ応援を依頼しに行った。ノーマンとも知り合いの保安官夫婦は、ノーマンの母親が昔愛人を毒殺し、自分も同じ毒で自殺したと語った。母親は生きているのに!と不審がるライラとサム。保安官夫婦はそれ以上手助けをしてくれる様子もなく、仕方がないのでライラとサムは二人でモーテルへ向かった。
夫婦を装ってモーテルに宿泊した2人。サムがノーマンをモーテルの事務所に引き留め、その間にライラは屋敷の中を調べることに。それに気づいたノーマンがサムを鈍器で殴って屋敷に戻って来た。とっさに地下室に隠れたライラは、そこで椅子に座る一人の女性を見つける。恐る恐る肩に手をかけてみると、回転式の椅子が回り、こちらを向いたのはミイラ化した女性の遺体だった。ライラが悲鳴を上げた時、女性の格好をした人物がライラに包丁で襲い掛かる。なんとか間に合ったサムに制止されたその人物は、女装をしたノーマンだった。
精神科医が逮捕されたノーマンを分析したところ、彼は二重人格であり、自分と母親の人格が同居しているという。幼い頃に父を亡くしたノーマンと母親は2人だけで暮らしていたが、母親の執着心の強さからノーマンは徐々に気を病んでいった。母親に愛人が出来たとき、自分が捨てられると感じたノーマンは愛人と母親を殺したようである。
そのショックからかノーマンは墓を掘り起こして母親の遺体を持ち帰り、自分が母親の役も演じながら生活するうちに母親が人格化した。ノーマンは母親がまだ生きているという妄想に溺れていったのである。完全な母親の人格になることはあるが、完全なノーマンに戻ることはなくなっていた。
執着心の強い母親の人格は、ノーマンが女性と関わろうとする度に彼を邪魔するようになった。そして、今回は母親の怒りの爆発によってマリオンは殺害されたのである。ノーマンは母親の罪を隠蔽する親孝行者として遺体処理をしていたのだった。
警官がノーマンに毛布を持って行った時、「ありがとう」と言った声は老婆の声だった。そして完全に母親となったノーマンのナレーション。
「母親が実の息子の罪を証言するのは悲しいことです。だが私は私が殺人を犯したと思われることは許せない。息子は悪い子だった。息子は私が女の子達とその男を殺したと証言しました。私は鳥の剥製のように指一本動かせないのに。警察は私を監視するでしょう。私はハエも殺せない人なの。私がどんな人かを見て分かってくれればいい。私を見て、ハエも殺せない人だと理解してくれればいいのよ…」
最後はノーマンのニタリと笑う顔に母親の遺体の顔が重なり、シーン変わって沼から車が引き上げられるシーンでエンド。
感想
見応えのある作品でした。最初のシーンで愛憎劇かと思いきや主人公だったマリオンが殺され、普通ならひと悶着ありそうな大金もマリオンと共に沼に沈められ、モーテルの怪しい親子の話へ、そして最後はノーマンの二重人格にまで話が転換していきます。
一貫性がないことで逆に観客の注意は緩むことなく、その転換の滑らかさから違和感なく物語についていけます。この観客の注意を一転二転させる手法もヒッチコックの起こした革新と言われています。当時61歳のヒッチコックの新技法にこだわった執念が垣間見えますね。
観る人によっては手法や映像の古さに足をとらわれてしまうかもしれませんが、現代の映画に大きな影響を与えた映画として鑑賞するとたくさんの発見があると思います。映画におけるシャワーシーン=殺人を想起させるに至るほどの衝撃的な殺人シーンと、数々の当時としては先進的な表現方法、そして音楽に至るまで、実に多くの作品がこの『サイコ』にオマージュを捧げ、その技法を取り入れています。
さて、本作最大の謎は、母親は自殺したのか、ノーマンに殺害されたのかという部分です。保安官と精神科医の話に食い違いがあるのですが、皆さんはどう思いますか?
僕はノーマンに殺害されたという精神科医の話に一票。
幼い頃から母親と2人きりで極度に抑圧されて過ごし、気を病んだノーマンだが、母親が見知らぬ男を連れてくるとそれまでの世界が壊れることを恐れてしまった。そして母親を愛人もろとも殺害し、母親と2人きりという歪んだ世界から脱却できずに母親の死体を回収してまた元の世界に戻ることを願った。しかし母親は二度と動かない。そのため自分が母親の役も演じながら生活するようになり、以降は母親の人格を隠れ蓑にして気に入った女性を歪んだ欲望のまま殺していた。
と考えるとけっこう筋が通るかなと思いますが、いかがでしょう!!
この考察からすると、ノーマンは可哀想な息子ではなく、がっつり悪意のある連続殺人鬼ということになりますが。最後の「ニヤリ」はそういうことだと僕は解釈しました。
『サイコ』の小ネタ
・トイレ(便器)が映画内で映るのはこの『サイコ』が初めてだった
・マリオンの同僚の女性役を演じたのはヒッチコックの実の娘である
・マリオンのシャワーシーンの撮影だけで一週間も撮影が行われている
・マリオンが刺される時の音はメロンにナイフを刺す音を使って表現された
やはり古いが故のおもしろいトリビアがありますね。
総合評価は85点(100点満点)です。DVDで持っておきたいくらいです。
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