映画の基本情報
■公開年:2017年
■監督:サイモン・ハンター
■主演:シーラ・ハンコック、ケヴィン・ガスリー
■制作国:イギリス
■上映時間:102分
83歳のシーラ・ハンコックが山登りに挑むヒューマンドラマ映画、『イーディ、83歳 はじめての山登り』を観たので、あらすじ(ネタバレ含む)と感想を書いていきます。あらすじはネタバレなしの部分とありの部分とに分けて書いているので、まだ観ていない方は注意して読んでください。
高知県では「あたご劇場」で放映された本作。家族のためだけに尽くしてきた83歳のおばあさんが、ある出来事をきっかけに長年の夢だったスコットランドの山へ登ろうと決意する。その奮闘の中で、彼女は長年見失っていた大切なものを見つめ直していきます。中盤で少し間延びがする感はありますが、イーディの挑戦と苦難に加え、スコットランドの雄大な風景も見応えのある作品です。
現在、DVDは海外版しかないようです。
主な登場人物
■イーディ(シーラ・ハンコック):83歳の偏屈おばあさん
■ジョニー(ケヴィン・ガスリー):登山用品店に勤める男性店員
あらすじ(ネタバレなし)
御年83歳のイーディは、ロンドンに住みながら、同じく年老いた旦那のジョージを介護する毎日を送っていた。ある日、屋根裏を整理している時に、古びた登山用具と父からの絵葉書を見つけるイーディ。彼女は幼い頃、父親とよく登山やキャンプをして過ごしていた。父からの絵葉書には、スコットランドのスイルベン山の写真があり、「一緒にこの変な山に登ろう」というメッセージが添えられていた。懐かし気に絵葉書を見つめるイーディ。その日、30年間介護し続けてきた夫ジョージが亡くなった。
娘のナンシーはイーディを老人介護施設へ入れる。しかし、そこでの生活に楽しみなどなく、イーディは孤立していた。ナンシーは、イーディの荷物を整理している時に一冊の日記帳を見つけて読んでしまう。そこには、高圧的で暴力をふるう夫に対する不満や、育児に追われて自分のことが手に付かないイーディの毎日の苦しみが綴られてた。ナンシーが自分の日記を読んだことを知ったイーディは彼女に弁明をするが、結局口論になって「育児の義務は果たした」と言い放ってしまう。実の母親からそのようなことを言われた悲しみで、ナンシーはイーディを残して去ってしまう。悲しみと怒りで日記を暖炉で焼いたイーディは他の思い出の品も焼いていくが、父から貰ったスイルベンの絵葉書だけは捨てられずにいた。
ある日、行きつけのレストランで「追加注文にはもう遅いかしら?」と尋ねたところ、心優しい馴染みの店長から「遅すぎることなんて何もないさ」とのお言葉を賜り、その言葉をきっかけにイーディはずっと忘れられなかった父との約束を果たすため、スコットランドのスイルベン山に登ることを決意する。
あらすじ(ネタバレあり)
※以下ネタバレあります。本作をまだ観ていない方は注意して下さい。
数日家を留守にすると電話でナンシーに告げ、夜行列車に乗ってスコットランドへ向かうイーディ。インバネスという街へ到着してバスを待っていたところ、インバネス駅でも見かけた若い男性が車で通りかかり、次のバスは4時間後だから車で送っていくと言う。最初は「人の世話にはならん」と断っていたが結局その男性、ジョニーの助けを借りてスイルベンにほど近い小さな町まで送ってもらった。町へ着いてホテルへチェックインしようとするが、到着日を一日間違えて予約していたため、気を利かせてくれたジョニーが一晩自分の部屋に泊めてくれることになった。しかし、若い男性の小汚い家に不満気味のイーディ。翌朝部屋にお金を置いて、まだジョニーが寝ている中家を後にしたイーディ。
カバンのバックルを直そうと町の登山用品店へやって来たイーディは、そこでジョニーに再会した。彼はこの店で働いており、一緒にいた彼の友人が、「ジョニーは町一番の登山家だから危険なスイルベンに登るなら彼をガイドに付けて行け」とアドバイスする。その友達が勝手に金額を交渉して話を取りまとめ、イーディはジョニーから数日間の登山用トレーニングを受けた後、ガイドとして登山にも同伴してもらうことに。おばあさんの付き添いに渋々ながらも、お金のため承諾したジョニー。
早速翌日からトレーニングを開始した2人だったが、頑固で偏屈なイーディにイライラのジョニー。ジョニーが泥まみれになったイーディのブーツを川で割と激しめに洗っていると拍子でブーツは川に流されてしまった。どうせ古臭いブーツだったので、ジョニーの店でちゃんとした登山靴を買うことにしたイーディ。その他にも機能性の高い登山用ウェアやトレッキングポール、ザックなどの装備を買い揃えた。翌日からは徐々に身の上話もできるようになり、二人は仲良くトレーニングをこなすことができた。イーディは、結婚後夫の束縛から父と疎遠になり、絵葉書で届いた父からの登山の誘いが実現しなかったことを悔いていると語る。また、イーディは、なんだかんだ言いながらもとてもよく世話を焼いてくれるジョニーに感謝できるようになっていった。
トレーニング最後の日には、ジョニーがイーディを飲みに誘う。酔ったジョニーの友達がイーディを無理矢理ダンスに誘った拍子に彼女は酔いも回っていたことで倒れてしまい、医者から過度の疲労だと告げられたイーディは登山を諦めてしまった。イーディの登頂を信じていたジョニーは、渋々彼女をインバネス駅まで送ることに。しかし、ジョニーは途中で彼女を車から降ろし、強制的に自転車で走らせて勇気づけ、彼女は父との約束のためにスイルベンに登ることを決意した。しかし、彼女はジョニーの同伴を拒み、一人で登らないと意味がないという旨の供述をして一人で山へ向かうことに。それが83歳のおばあさんには非常に危険なこととは知りつつ、ジョニーは彼女の意思を尊重し、自分の携帯電話だけ持たせて彼女を送り出した。
一日目は良かったが、二日目は嵐となり、テントを張る際に強風でテントを吹き飛ばされてしまう。嵐のためにイーディの身を案じたジョニーは、自身の働く登山用品店のリニューアルオープンのセレモニーをも抜けて山へ向かう。吹き飛んだテントを追いかけて迷子になったイーディは奇跡的に山小屋を見つけ、そこに入って寝入ってしまう。そこは猟師の山小屋で、夜遅くに帰って来た猟師はイーディの上着を干し、朝食まで作ってくれた。猟師とは一言も会話を交わさなかったが、イーディは感謝の印に父からの大切な絵葉書を部屋に残して山小屋を後にした。スイルベンのふもとに来たイーディは、山で最も厳しい最初の2kmも続く急斜面を登り始めるが、疲労がたまり、ザックを捨てて登山を続けることにした。一方ジョニーはイーディの捨てたザックを見つけて、大急ぎで彼女の後を追いかけており、急斜面を登り切ったところでぐったりとしている彼女を発見する。イーディの生存を確認して安心したジョニーは、彼女を支えて山頂まで連れて行った。イーディは山頂からの雄大な眺めを、万感の思いを馳せながら眺めるのだった。
感想
夫の死を機に、かつて夢に描いた登山を83歳で実現する主婦の物語です。ストーリーは至ってシンプルですが、映画の尺に引き延ばされたせいか中盤のバーのくだりなど、ちょっと冗長に感じてしまう部分は否めないです。イーディとジョニーが仲良くするあちこちのシーンも、もう少し短くて良かったかも。それがなくても、世話焼きで優しくてだんだんとイーディに感情移入していくジョニーと、彼の優しさに心を開いていくイーディの姿は十分に伝わる構成だったと思うので。
本作のテーマは「人生を楽しむのに、遅すぎることなんてない」という『最強の2人』や『最高の人生の見つけ方』にも通ずるものでした。必死で前に進み、山を登っていくイーディには勇気づけられますし、初期のイーディのように、心を閉ざして自分で自分の可能性を潰してしまっている現実は老若男女問わずあり得ることだなと感じました。繰り返しの日々の中で思考が固まり、いつしか夢を忘れてしまうパターンは現代社会では珍しいことではありません。また、ずっと決められた狭い範囲で生活していたイーディは、おてんば娘だった頃の人生を楽しむコツを、一人旅の中で少しずつ取り戻していったのかなとも感じます。僕も旅が好きなので、凝り固まった思考が旅をする中で解けていく感覚は分かる気がします。ただ、個人的には、本作はもっと年を重ねてから見直すとさらに意義深い作品なのかなと思いました。
また、序盤の娘ナンシーとのやり取りで、家族関係についてもサラッと重たい問いを投げかけている本作。妻として、また母として生きて行くことを強制された主婦が、残りの人生をそれに捧げなければいけないという風潮は、女性の社会進出が進んだと言われる今日でも水面下で残っていると思います。それに幸せを見出せる方はいいとしても、イーディのように自分の夢や希望を諦めざるを得なかった方も大勢いるんだろうな、とそんなことまで考えてしまいます。作中で夫への批判を口にするイーディを見て、邦画『葛城事件』の母親を思い出してちょっと陰鬱に…。
かと言って、実の母親に「子育ては義務だ」と言われるとそれは納得できないですが。個人的にあのシーンでは、イーディではなく、泣きながら去っていったナンシーの方に感情移入しちゃいました。本作はイーディが登頂したところで終わりますが、その後ナンシーと和解できたのか気になって仕方ない今日この頃。
中盤間延びすることを差し引いても、スコットランドの美しい風景と、人生と向き合うイーディの姿は見応えがありましたし、考えさせられる部分もたくさんありました。出演シーンは短いながら、レストランのおじさんと猟師のおじさんが良い味を出してたのもすごく良かったです。一人の登山好きとしては、スコットランドへトレッキングに行きたくなりました。最後に、撮影当時、御年83歳で実際にスイルベンに登頂したシーラ・ハンコックに敬意を表します。
総合評価は75点(100点満点)です。日本では放映場所が限られているので、気になる方は探してみて下さい。
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