映画『太陽がいっぱい(Plein Soleil)』あらすじと感想

Amazon|太陽がいっぱい【特典DVD付二枚組】より引用

1960年に公開されたルネ・クレマン監督の代表作、イタリアが舞台のフランス映画です。映画史上に名を残す名作中の名作を先日やっと観たので、あらすじ紹介(ネタバレ含みます)と感想を書いていきます。さすがに名作と名高いだけあって、印象的なラストシーンや超ド級の美男子、アラン・ドロンの怪演など、鮮烈に記憶に残る映画ではないでしょうか。クライムものですが、陰鬱な雰囲気の作品でもないので、普段サスペンスのジャンルを見ない方にもおススメです。

主な登場人物

トム・リプレー(アラン・ドロン):アメリカ出身の貧しい美男子
フィリップ・グリンリーフ(モーリス・ロネ):アメリカ出身の金持ち息子
マルジュ(マリー・ラフォレ):フィリップのフィアンセ

あらすじ(ネタバレなし)

舞台はローマ。2人のアメリカ人青年がカフェのテラス席にいるところから物語が始まる。主人公トムは、フィリップの父から5000ドルで、海外で遊び惚けるドラ息子フィリップをアメリカへ連れて帰るよう依頼されていた。しかし、説得しても全く帰る気配のないフィリップ。トムはお金もないためそのままフィリップに付き添って回ることになる。
道ですれ違った盲目の男性から杖を買い取ったフィリップは、その杖を使って盲目のフリをし、通りすがりの女性に近づいてナンパ。馬車に乗り込んでイチャイチャし始めるフィリップと女性と、そのおこぼれにあずかるトム。その時、トムはなぜか女性のイヤリングをこっそり盗むのであった。

場面変わって、モンジベロという街。男2人は、フィリップの婚約者マルジュの家に帰ってきていた。マルジュはローマ滞在中に自分に連絡もよこさなかったことでフィリップに腹を立てていた。フィリップはそれを謝ることもなく、マルジュにローマのお土産を渡した後、無理矢理イチャイチャを始める。フィリップに部屋を追い出されたトムはフィリップの部屋へ行き、フィリップの私物であるブランドものの服や靴を身に付け、鏡に映った自分に口づけすかのようなしぐさでフィリップの真似をするのだった。「マルジュ愛してるぜ」とフィリップのセリフを真似るトムだったが、実はトムは本当にマルジュに想いを寄せていた。

翌日、タオルミナへ遊びに行こうと連れたって、3人はフィリップのヨットに乗り込み出発した。マルジュはなぜトムも同行するのかと不満がっていたが、またフィリップに丸め込まれる。ヨットの操縦をトムに任せたフィリップはマルジュと船内でイチャイチャし始めるが、それを妬んだトムがわざと舵を乱暴にきって邪魔した。怒ったフィリップはトムを小型ボートに乗せてヨットに長いロープでくくりつける形で隔離、フィアンセと二人の時間を楽しもうと船内に戻っていくのだった。

マルジュとのイチャイチャにひと段落ついてフィリップが甲板にあがると、トムを乗せたボートの紐が切れて、ボートは消えていた。急いで探しに戻ったところ、半裸で日に照り付けられぐったりしているトムを発見。船内でマルジュが解放するものの、彼女はトムに「タオルミナで降りたら一人で帰国してほしい。二人っきりにしてほしい。」と告げる。その晩、トムはフィリップの上着のポケットに、ローマで女性から盗んだイヤリングをこっそり忍ばせる。そんな中、トムの持ち物の中から、フィリップの銀行口座の記録の紙が見つかり…。二人から邪険な扱いを受けながらも、トムは淡々と自分の考えた恐ろしい計画を実行する機会をうかがっていた。

あらすじ(ネタバレあり)

※以下ネタバレあります

トムの持ち物から自分の銀行口座の残高表を見つけたフィリップは、トムが自分を殺して自分の財産を横取りする計画を立てていると感づく。トムを問い詰めると、トムはあっさりと殺意があることを認める。そんなに上手くは行かないぞ、とたしなめるフィリップだったが、トムは余裕の表情を浮かべている。すると、上着のポケットの中にあるイヤリングに気付いたマルジュが怒ってフィリップと言い合いを始め、フィリップも感情が爆発。結局近くの港で一人下船したマルジュを置いて、男2人は海へ戻っていった。

こうして海の上で2人きりになったことで、トムは遂に計画を実行に移す。もともと父がトムに提案した5000ドルと同額を彼に渡してことを収めようとするフィリップに対し、「俺は全財産を頂くつもりだ」と言い放ち、ナイフで刺して彼を殺害。死んだフィリップを布に包んで紐で縛り、ヨットから投棄した。

そして街に戻ったトムは、ホテルに宿泊しながらフィリップのパスポートを偽装して自分のものにし、サインや声色を真似ながら周囲の人物を騙して着々となり替わり作戦を進めた。マルジュにも、フィリップが他の女を作っており、マルジュにまだ怒っていて会うつもりがないと嘘を吹き込む。
しかしある日、フィリップの友人のフレディがたまたまフィリップの居場所の情報を仕入れてフィリップに会うつもりでホテルへ来る。しかし、もちろんそのホテルもフィリップ名義でトムが借りたものであり、想定外の突然の訪問者に焦ったトムは、フィリップ殺害がばれそうになったことでフレディを鈍器で殺害してしまう。何とか死体を処理したトムは、警察の手から逃れるためフィリップが殺害したかのように証拠を偽装工作し、一時期は本来のトムという人物に戻って警察を騙すことに成功する。全財産はマルジュへ相続するという旨を盛り込んだ偽のフィリップの遺書を書いたことで、警察はフレディ殺しの犯人をフィリップだと結論付けた。

フィリップが自殺したという情報でふさぎ込んだマルジュは、モンジベロの自室へ閉じこもって2週間誰とも会っていなかった。しかしトムはうまく彼女の部屋へ滑り込み、言葉巧みにマルジュを手玉に取って誘惑し、ついにマルジュまでも自分のものにしてしまった。トムに心を許したことで元気を取り戻したマルジュは、相続遺産に含まれていた例のヨットも売却することに決めた。

ヨットの引き渡しの日、海でトムと泳いでいたマルジュは仲介業者とフィリップの父が訪ねてくることを思い出して、ヨット引き渡しの現場に向かう。トムは一人海に残ってマルジュを待つことにした。そばの売店へ行ってビーチチェアに身を委ね、太陽をいっぱいに浴びながら、極上のお酒とともに自分の計画が大成功した幸せをかみしめていた。一方マルジュ達、ヨットの引き渡しに立ち会っていた人々は、状態確認のためヨットを海から引き上げるところだった。徐々に船体が陸にあがっていくと、後方部のスクリューに紐が絡まっている。そして全てを陸へ引き揚げてみると、その紐は布の塊に結びついており、布の間からは腐った人の腕が見えているのだった。
幸せ気分に浸るトムのビーチへ警察が到着し、売店のおばちゃんにトムを呼び寄せるよう指示を出す。「お客さん、お電話ですよ!」と呼びかけられて振り向き、売店へ向かって歩いてくるトムのシーンで物語が終わる。

感想

古めかしい映像も相まってめちゃめちゃお洒落な雰囲気のある映画でした。主人公が犯罪計画を進めるだけなのに見入ってしまうストーリーも、アラン・ドロンの美貌も、全てが絶妙にマッチしていました。

始めに書いておきますが、この映画はホモセクシュアルな要素を含んでいるとよく言われています。原作『The Talented Mr. Ripley』や、後の1999年にリメイク版として公開されたアメリカ映画『リプリー』でははっきりとトムがホモセクシュアルである描写がされています。
『太陽がいっぱい』では明確な描写こそないものの、物語の序盤の方でトムがフィリップの服を着て鏡の前で真似しているときに、鏡に映った自分に口づけするかのようなシーンがあります。フィリップの衣服をまとった自分をフィリップに見立てて妄想していたのでしょうか…。しかし、本作ではトムがマルジュに想いを寄せる表現の方が明確にされているので、この『太陽がいっぱい』の感想としては個人的にはあまり掘り下げないでおこうと思います。

この映画では、美男子トムの顔に隠されたなかなかの狂気を味わうことができます。そもそも邪険な扱いを受けていたとはいえ、彼が完全犯罪を目論んだのはシンプルにお金持ちのフィリップの財産が欲しくなったからです。フィリップのお金もフィリップの婚約者マルジュも手に入れたいという気持ちが彼を犯罪に駆り立てます。冒頭のローマで盗んだイヤリングを、フィリップとマルジュを引き離すために利用するあたりはかなり天才的で計画的ですし、フィリップ殺害直後にパンを食べる彼の姿も印象的でした。正直言って、彼が美男子なので余計に不気味です。フィリップのサインを淡々と練習するシーンや、不本意ながら殺したフレディの死体処理のシーンなど、卑しい育ちの彼がどうして身に付けたのかというような犯罪の手口も注目すべき点でしょう。

世間的には、ラストシーンが曖昧で分かりにくい。という批評もあるようなのですが、僕はこれがこの映画の完璧な形のラストだと思っています。むしろ、今まで見てきた映画と比べても屈指の素晴らしいラストシーンだと思います。そもそもパスポートまで自分のものに偽装して、フィリップの名前でホテルや銀行などあちこちに出回っているので、警察が少し捜査すればトムの作戦がばれることは明白ですよね。あえて説明しない、描かないことで物語や演出に深みを出していて、その結果この映画は名作として名を残すことになっているんです。このラストなくしてこの評価はなかったと思います。

またトムの視点では、ラストシーンは、抹殺したはずのフィリップの遺体が見つかり、今まさに自分の人生が台無しになりかけている、という破滅のシーンですが、画面に映っているのはまばゆいほどの太陽の光に包まれたイタリアのビーチなんです。めちゃめちゃ綺麗なシーンなんです。この構図がまた面白い。この「太陽がいっぱい」な中、トムはゆっくりと破滅へ向かって歩き出します。思い返せば、フィリップのヨットから小型ボートで隔離されて綱が切れて海をさまよった時も「太陽がいっぱい」でした。トムは長時間太陽に照りつけられてぐったりしていましたね。
フィリップ殺害後、もちろんトムは身を潜める必要があるので、主にホテルの部屋や夜の街などの陽の当たらない場所で計画を進めていきます。つまり、太陽の光は彼のためにはないんです。この「太陽」を、「お金や女性」に置き換えてみてもそうです。他人の財産と女性を手に入れたトムですが、これらは勿論彼のためにあるものではありません。いくら手に入れたと思っても、その現実はすぐ壊れてしまう。これが彼の宿命、わきまえるべき限界なんだというメタファーとも考えられます。

かなり古い本作ではありますが、フィリップ殺害シーンの船上での緊迫したカットや、ラストの美しくも後を引く場面など、心に残って離れない場面の数々が散りばめられた珠玉の映画作品だと思います。個人的評価は95点(100点満点)です。クライムサスペンスに馴染みのない方にもおススメです。

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